まもなく、日本列島を「死有地」が覆い尽くす 所有者不明の空き家や山林が急増中

 
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人口減少により表面化した空き家問題だが、その根は想像よりもはるかに深い。誰の土地かわからないから、相続人も行政も手を付けることができない――まさしく「死んだ土地」が街にあふれていく。

最後の登記が1世紀前

さいたま市・大宮駅からほど近い県道沿いに、異様な佇まいを見せる一軒の「空き家」がある。周囲にはビルや高層マンションが立ち並び、空き家が面する県道はきれいに整備されている。

ところがその県道に沿った歩道を2メートル近く塞ぐようにして、柱も外壁も朽ちた家屋が突き出しているのだ。

瓦屋根がほとんど崩れ、ゴミも大量に放置されていて、とても人が住めるような状態ではない。歩行者の危険になるので、さいたま市が100万円をかけて空き家の周りにフェンスを設置した。

駅近で奥行きがしっかりとあり、小さいビルを建てることもでき、売却すれば数千万はくだらない立地のはずである。

価値が十分にありながら、手つかずになっているこの大宮の物件は、もはや私有地としての役割を失った「死有地」と呼ぶべきものだ。

 

実は、この家が最後に登記されたのは明治時代のことだ。それから1世紀あまりのあいだ、登記変更は行われず、代替わりするごとに法廷相続人は増え、いまでは数十人に及んでいる。

本来であればその家の住人が所有者ということになるが、空き家になってしまっているため、相続人のうち誰が法律上の所有者かは特定できない状態になっているのだ。

この相続人の一人である90代の女性は言う。

「私は3姉妹の末っ子で、結婚前は一家でそこに住んでいました。ただ、この土地をどうするかについて父からの遺言はなかったのです。

だからいま誰の所有地になっているのか、誰がどれくらい固定資産税を払っているのか、家族のあいだでもよくわかっていません。

『それはうちの土地だ』と言ってくる親族もいるのですが、行政書士に相談したり役所に出かけて手続きすることも体力的に厳しく、私自身ではどうすることもできなくなってしまいました」

なぜ、このようにほんとうの持ち主がわからない「死有地」と化すのか。

「ふつう、土地や家屋の所有者が亡くなったとき、相続人が相続登記を行って名義を書き換えるのですが、これは義務ではありません。そのため、きちんと手続きがされないと、登記簿上の名義は故人のまま、相続人の誰かがそのことを知らずに住んでいることもありえます」(住宅・不動産総合研究所代表の吉崎誠二氏)

死亡などのタイミングで登記の書き換えが行われない場合、後になって手続きすると、かなり厄介なことになる。相続人全員の戸籍謄本や住民票の写しを取り、その全員から登記の変更について了承を得る必要がある。

4軒に1軒は空き家に

超高齢社会、老老介護の宿痾と言うべきか、高齢者から高齢者へ土地の所有が引き継がれていく一方で、相続人の数はどんどん増えていく。資産管理の収拾がつかなくなった結果、塩漬けになった不動産が大量に出現してしまう。

そしていま、このような「死有地」が全国的に急増している。増田寛也元総務相らによる「所有者不明土地問題研究会」がこの6月に発表した衝撃的なレポートによると、日本全国で所有者がわからなくなっている宅地や農地などの土地は約410万ヘクタールにのぼり、これは国土の私有地の約2割にあたる。約368万ヘクタールある九州全土を上回る大きさだという。

野村総研が'17年に行った試算によれば、2028年には日本の住居の25.7パーセント、つまり4軒に1軒が空き家になるという。高齢化と人口減少が過疎地域から加速度的に進んでいくなかで、「死有地」の問題は都市部にもおよぶことになるのだ。

 

すでに都市部でも、700ヵ所以上の所有者不明の土地が見つかり、それがさまざまな問題を引き起こしている。東京五輪などに向け再開発が進む都内の住宅地では、現在の所有者がわからないせいで大規模な区画整理をすることもできない。まさしく「死有地」と呼ぶほかない土地だ。

たとえば再開発が進む品川区では、緊急車両が通れるように土地の買収を検討し、区画整備を進めているが、先述のさいたま市の例のように交渉すらできないケースがままあるという。

日々の生活に、「死有地」の存在はどのように関係してくるのだろうか。

「地震や豪雨災害が起こったとき、『死有地』は地域全体のネックになります。東日本大震災からの復興を進めるとき、所有者不明の土地があるために倒壊家屋の取り壊しができず、区画整備が遅れたケースもありました」(前出・吉崎氏)

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一軒家ならばまだいい。今後さらなる問題を引き起こすのは「マンション」だ。築数十年も経てばマンションは老朽化し、修繕や建て替えが必要になってくる。

もしこのとき分譲されたマンションの所有者が数十戸単位で所在不明になっていたら、その合意はどうやって行うのか。想像するだけでも恐ろしい。

ちなみに「死有地」化が進む地方の山林部では、所有者が不明なだけでなく、そもそも土地の境界線がどうなっているかすらもわからないことが問題になっている。

それはどういうことか。数ヘクタール規模で相続することも多い山林の境界線は、「木に書いた目印から大きな岩のあるところまで」などと、権利者間の口約束で長い間まかりとおっていたところが多い。

境界線を改めて確定するのも骨が折れる作業で、その境界線の周辺に住む権利者の合意のもとで進めていくしかない。

その相手側の土地がすでに「所有者不明」になってしまっていたら、さらにその作業は困難になる。きちんと境界線を確定し、正直に登記の書き換えを行ったとしても、待っているのはほとんど慈善事業に近い土地管理である。

 

寄付もできない

そのような山林は、実際のところ資産価値としてタダ同然だ。持ち続けた場合の固定資産税や維持費のコストを考えて、利益が出ないどころかむしろ出費になったとしても土地を手放す人もいるほどである。

「土地の相続登記には登記料がかかり、宅地の場合では登録免許税などの諸経費を合算すると20万円以上になることもあります。現行では相続登記に期限はありませんから、ほとんど資産価値のない土地を相続した人が手続きせず、そのまま放置してしまうケースがあるのです」(行政書士の寺田淳氏)

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やりくりのしようがない土地は、相続放棄をして国に返還する方法もある。ただ、そのためにはやはり相続人全員の了承が必要で、おまけに土地以外も含めた全財産も放棄しなければならず、ハードルが高い。

土地を自治体に寄付するという手段もあるが、それは公共事業などに利用できる土地に限られる。「死有地」のほとんどが、そのような有用な土地ではない。

もし法律が改正され、よりスムーズに土地の相続放棄が実現できるようになったとしよう。そうなれば、この国には大量の「国有地」が誕生することになる。固定資産税収入も得られなくなった国有地の管理コストを負うのは国民だ。結局、これも「死有地」と化すことに変わりはない。

富士通総研主席研究員の米山秀隆氏は次のように語る。

「所有者不明の土地が急増したのは、やはり人口減少にともなって全国的に地価が下落し続けていることにあります。いま地銀では『空き家解体ローン』という商品が売り出されているほどで、せっかく建てた家を取り壊すために借金をする高齢者すらいる事態です。

人が減れば産業も衰退し、街として魅力がなくなるから、より都心への人口流出に拍車がかかる。こうした負のスパイラルが続く限り、土地を捨てる人は増え続けていくでしょう」

いずれにせよこのまま「死有地」が日本列島に増殖し続けるのは確実だが、そのなかでわれわれがこれまで当たり前と思っていた生活様式は、少しずつ変化を遂げていくことになる。

今後、行政は徹底的にコンパクトシティ化を図っていくだろう。人口流出で空き家の問題が深刻化した北海道夕張市が'07年に財政破綻したが、その後は市内中心部の公営住宅に遠方の住民を移住させるなどの都市計画を進めている。

一極集中化には賛否が分かれるところかもしれないが、自治体を維持するためには仕方あるまい。

「また、'14年の都市再生特別措置法の改正で、居住誘導区域以外での開発に制限がかけられるようになりました。

これにより、デベロッパーは区域外での開発に手を伸ばしにくくなります。そうなると、地方都市では『人が住めるエリア』とそうでないエリアの線引きがよりいっそう進んでいくことになります」(前出・米山氏)

いま「限界集落」と呼ばれている地区は当然として、比較的都心に近い場所でも「捨てられる土地」が増え、人がまったく住まないエリアができる――4軒に1軒が空き家となる2028年、にわかに想像しがたい現実に我々は呑み込まれることになる。

家が「負債」になる

「死有地」が増加して、本格的に人が住まない地域が出てくると、それに関連してあらゆる問題が生じてくる。

喫緊の懸念材料としては、所有者不明の土地に目を付けた犯罪の増加だ。人目の届かない空き家に放火されたり、不法滞在の外国人などが住むケースも考えられる。いずれにしても、起こってからでないと気付かないのが恐ろしいところだ。

 

インフラについても、今後大きな問題に直面することになる。

日本では'70年代がインフラ投資のピークで、その耐用年数は50〜60年程度といわれている。

たとえばいま、首都高や東名高速の老朽化が指摘され、それぞれ大規模な改修工事が予定されているが、これらは利用者が多く改修のメリットがあるからだ。

一方で人の住まない地区のインフラ改修は採算が合わず、行政としても所有者がわからない土地の周辺は整備しにくくなっていくため、いまのような状態を維持するのは難しい。

生活に必須なインフラの一例として、収入を利用料金で賄っている水道事業の経営は厳しくなる。「人が住まないエリア」の上下水道が劣化しても、修繕は行われずそのまま放置される可能性がある。

これは電気やガスにも同じことがいえる。当然、そうなれば飲食店から病院まで、あらゆるサービスは停止して誰も住めなくなる。こうして、ゴーストタウン化が進んでいくのだ。

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所有者不明の土地が増える現実を、個人の力で打開することは難しい。だからこそ、行政主導による都市部への一極集中化が今後進んでいくのは仕方のないことなのかもしれない。故郷が失われていくことは、あまりにも悲しいことだが。

「2028年ごろには、人が家を持つということの意味がなくなっているかもしれません。不動産は流動性の低い資産で、価値が下がっていくだけの物件を持っていても、負債が積み重なっていくだけ。

家を購入するのは、今後も値上がりしていくであろう都内の超一等地を買える資産家だけで、ほとんどの人は必要な場所に、そのつど家を借りて住むのが当たり前になるでしょう」(前出・米山氏)

本連載がこれまでに取り上げた「AI上司」「自動運転」のケースでは、生活を豊かにする夢のあるエピソードも散見されたが、「死有地」に関してはそうはいかない。他人事ではない現実が、目前に迫ってきている。

「週刊現代」2017年10月14日・21日合併号より

 





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