フランスでは“漫画”が芸術として高く評価されているのをご存じだろうか? 近頃は図書館、大手書店ではMANGAのコーナーはどんどん拡張している。そもそもベルギー、フランスなどフランス語圏にはB.D.(バンド・デジネ)と呼ばれる独自の漫画文化があり、代表的な作品には『タンタンの冒険』がある。

 

日本の漫画家も彼の地では大人気で、中でもレジェンドと呼ばれ、高く評価されているのが谷口ジロー氏だ。2011年にはフランス政府芸術文化勲章シュヴァリエも受章していて、昨年、逝去の際はフランスのどのメディアも大きなニュースとして扱っていた。

 

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ルーヴル美術館のBDプロジェクト

さて、パリの美術の殿堂といえばルーヴル美術館。かつては歴代フランス王の宮殿だったが、これをそのまま利用し、1793年に美術館として公開された。収蔵品も多く、開館以来、世界中の人々を魅了し続けている。

 

そのルーヴル美術館に“ルーヴルBDプロジェクト”というものがある。漫画を芸術として認め、その漫画を通じてルーヴル美術館の魅力を世界に発信しようと近年にはじまった企画だ。

 

ルーヴル側が必要な資料を提供し、作家たちにはルーヴル美術館をテーマにした作品を自由に描いてもらうという新しい試みだ。著名な漫画家たちがコラボしてきたが、その中でも、絶賛されたのが、谷口ジロー氏の『Les Gardiens du Louvre』(ルーヴル宮の守り人)という作品。『千年の翼、百年の夢』(谷口ジロー・著/小学館・刊)はその日本語版だ。

 

豪華版とコミック版が出ているが、谷口氏が描く、パリの風景、ルーヴル宮、そして名画の“モナ・リザ”や“モルトフォンテーヌの思い出”などをじっくりと鑑賞するには、やはりオールカラーの豪華版をおすすめしたい。

夢と現の間にあるもの

誰でもそうだと思うが、美術館に足を踏み入れると時間が止まったように感じるものだ。そして作品を鑑賞しているとその感覚はさらに過去へ過去へと遡っていく。本書で谷口氏が描いたのも、そんな夢想の中の時空、夢よりもずっと現実によりそった次元の物語だ。

 

主人公の作家は、ヨーロッパの出張帰りにパリを訪れるが体調を崩し、ホテルで寝込んでしまう。なんとか回復し、ルーヴル美術館に行ったものの、その広さと、入場者の多さに酔ってしまい、気を失ってしまう。そこに「ムッシュー、どうしました? 大丈夫ですか?」と現れたのが、ルーヴルの守り人だった。不思議と人ごみが消え、静まり返った館内。守り人に導かれ、作家はひとり“モナ・リザ”と対面することができた。普段、モナ・リザの部屋はあまりにも人が多く、絵を鑑賞できる雰囲気ではないのだ。

 

「でも、なぜ? 僕は……」と作家が問うと、守り人は言った。

 

ルーヴル宮は、夢の迷宮、夢と現の間にあります。気の遠くなるほど長い歴史の中、古代から19世紀までの多くの美術品が収集されてきました。それらひとつひとつのものには魂が宿ります。展示されるもの、されないものすべてのものに。何百年も私はここでとても多くのものを見てきました。そして私たちは守り続けているのです。

このルーヴル宮を訪れるたび、あなたは夢の続きを見ることでしょう。

(『千年の翼、百年の夢』から引用)

 

そして、「あなたは誰?」に、守り人は応える「サモトラケのニケよ」と。

 

サモトラケのニケはギリシャ文明の大理石の彫像。ルーブルのドゥノン翼とシュリー翼の間、ダリュの階段の踊り場に、この「勝利の女神」は翼を広げて立っている。実物には頭部はないが、谷口氏の漫画では顔まで丁寧に描かれている。

 

 

コロー、ゴッホなど巨匠たちもよみがえる

主人公の奇妙な体験は、さらに続く。フランス絵画の数々を鑑賞し、19世紀フランスの画家カミーユ・コローによる名画“モルトフォンテーヌの思い出”に見入っていると、いつの間にか隣にひとりの日本人が立っていた。それは浅井忠、1900年のパリ万博にあわせてフランスに留学していた明治時代の画家だ。浅井氏が最も尊敬した画家がコローだったのだ。

 

そこに再びルーヴルの守り人が現れ、作家はいつの間にか森の中に浅井氏とともに去っていた。

 

素描の森ですよ。コローの。(中略)自然の中に、自然を越えた美の秩序をとらえなければならない。素描は画家にとっては大切な仕事です。素描がなければ絵画は成り立ちません。

(『千年の翼、百年の夢』から引用)

 

そして視線の先にはデッサンをするコローがいて、こちらを振り返り微笑み返すという、読み手にとってワクワクする展開が続く。

 

さらに、本書には私たち日本人が大好きな画家ゴッホも登場する。主人公がゴッホの最期の地、オーヴェル・シュル・オワーズを訪ねると、過去の世界に紛れ込みそこにゴッホが現れ、会話をし、なんと部屋にまで案内されるのだ。そして一枚のデッサンに目が留まる。

 

これは今とりかかっている絵だ。『ドービニーの庭』だよ。まだスケッチだけど。色はね、こんな風にイメージしている。前景は緑とピンクの草地、左手には緑と薄紫の木の茂み。真ん中はバラの花壇

(『千年の翼、百年の夢』から引用)

 

と熱く語るゴッホ。谷口氏は漫画の中でゴッホを見事によみがえらせているのだ。

 

 

ルーヴルは不思議の迷宮

本書では、第二次世界大戦中にドイツ軍の侵攻から美術品を守る作戦中にタイムスリップし、モナ・リザやサモトラケのニケなどをパリから安全な地方へと搬送した様子も克明に描かれている。

 

また、ラストのクライマックスでは主人公が震災で失った妻とルーヴル美術館の中でつかの間の再会を果たす、という展開にも感動させられる。守り人は言った。

 

記憶です。それは現のなかの識閾が覚醒させたものです。あなたに喜びを感じてもらいたかった。光を…生きるということ生きてここにあるということ。ささやかなほんの小さなものにも”生”の時があり、物語がある。ものに宿る魂への鎮魂…、あなたはそれらの間を見ることができたのです。

(『千年の翼、百年の夢』から引用)

 

この漫画を読み終えると、ルーヴル美術館にたまらなく行きたくなる。私もその中のひとりだ。

 

【書籍紹介】

千年の翼、百年の夢

著者:谷口ジロー

発行:小学館

『孤独のグルメ』の谷口ジローが描く“孤独のルーヴル”!! ルーヴル美術館&オリジナル誌の共同企画。ヨーロッパで絶大な人気を誇る谷口ジローが挑む美術史の迷宮。ゴッホやコローなど巨匠たちが麗筆で蘇る!! 芸術家たちの魂が集う、美の迷宮ルーヴル美術館を訪れた作家は、ルーヴルの守り人に導かれ、美術史の旅に出る。ゴッホ、コロー、など巨匠たちと出会い、言葉を交わした作家が、最後に出会う人とは…!?

 

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Source: GetNavi web


Source: k-design.blog





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